2017-09-01

地獄の沙汰もチップ次第。

友人から、とある旅話を聞いてチップについて久しぶりに考えた。
最近、海外でチップを使うような場所やホテルに行っていないのだが、常に小額紙幣や小銭はポケットに入れていると単純に便利だ。海外ではおなじみのスリのカムフラージュにもなる。

そうやって準備しておいて、チップのおかげで九死に一生を得た経験は結構多い。
ベッドメイキングのために枕の後ろに置く気軽さとは訳が違う(もちろん、そういったプラスの使い方も大切なのだが)。

例えば、マカオから香港に戻るためのフェリーに並んでいた時のこと。祭日の夜ということで、香港に戻る地元の人々が多すぎてチケット売り場が長蛇の列になっていた。しかも、夜ということで当日中に香港に戻る必要がある人が多く、我も我もという状態でチケット売り場は混乱していた。当然、外国人には売ってくれるはずもなく「今日の船は終日すべて満席だから売れない」と言われた。時間に余裕があるなら一泊しても良かったが、翌朝には香港から日本に戻る飛行機に乗らなければならない。

つまり、「絶対今日中に戻らなければならない。」。

それでも難しい、と断られてしまったので、「お願いだからあなたの力でなんとかして」って船のチケットの金額にこっそり千円ほどのチップを隠して渡す。すると、その窓口員は上司と掛け合い、「明日のフライトで困っている日本人のためだから」ということで普段は使用しない貴賓室(VIProom)を私と友人の3人のためにこっそりあけてくれた。しかも、最終の船まで待つ覚悟をしていたのに次の船であっさり載せてくれた。
そのおかげで、本当にどうなることかと思ったけれど、無事に翌日日本に予定通り帰ることができた。

また、私は10年前の大学時代にトルコのNGOで2ヶ月少しの間インターンシップをしていたのだが、念のため事前にトルコ大使館にて正規のインターンシップビザを申請して取得していた。しかしそれがあるために、帰りにイスタンブール空港の出国審査で空港職員の男に捕まりパスポートコントロールの取調室に連れて行かれ、「滅多に見ないし、なんだかわからない不正なビザ」ということでいちゃもんをつけられた。挙げ句の果てに、もう一時間もせずに日本の帰国の飛行機が飛び立とうとしているにもかかわらず、その部屋に軟禁されるという事態になった。

「おたくの国がわざわざ金取って出したビザなんですけど、アホちゃいますか」と言っても埒が明かない。どう考えても、誰がどう見ても相手が強請ってるようにしか見えない。ヨーロッパを回った経験のある親や祖母からも言われていたのだが、新興国や発展途上国の空港において、屈強な空港職員による少人数の渡航客をカモにしたゆすりたかりみたいなものは実際に横行していたようだ。私は富裕国と思われている日本で童顔の女ひとり旅であり、なおかつお土産にもらった大量の荷物を抱えてわたわた帰国しようとしていたので、彼らに取って良いカモであったことは間違いない。しびれを切らせて渡航客から泣きつかれるまでは、自分からは口に出さないが「無事に飛行機乗りたきゃ金よこせ。金がないなら(異教徒だから)身体よこせ。」と顔に書いてある。めっちゃ怖い。

あーあ、初めての中東での海外生活で帰国直前で気持ちが緩んでいたのかなーと思って反省するも、反省だけなら猿でもできる。なんの解決にもならない。このまま飛行機を逃したところで誰も何も助けてなんかくれないだろう。

しょうがないので、残りの500円くらいの小銭をチップとして出して「とりあえず、通関の手続き料としてこんだけ。もっと必要ならもうトラベラーズチェックしか持ってないから戻って換金しなきゃいけない。空港でそもそも換金できるかもわからない。」と言ったところ、小銭の他にトラベラーズチェックを換金してくるという条件で部屋を出してもらった。

一度出たらこっちのもの。
だーれがぼったくられに戻るか、ばーかばーか!と思いながらパスポートコントロールから戻ってきてすぐ別の日本人団体旅行客の中に姿を紛れさせ、事情を話して別の出国カウンターから無事に脱出。向こうも手元にある程度のお金が入ったこともあり、本気で追ってこない。

私に取って、チップというのは大なり小なりこういう切実なところで身を助けてくれるものだ。

仮に有事にチップがなければ、貴金属を渡すということもある。
母はよく「海外に個人旅に行くときは、現金以外に金目の貴金属を目立たないところで身につけていなさい。」と言っていた。
例えば、災害があったとき、暴動があったとき、有り金をスられたとき、現金が足りなくなったとき、換金性の高い金や銀などのアクセサリーは世渡りにおいて非常に役立つということだ。

なので、私が旅に行くときは今でも何か一つは有事のためにお守りがわりに一つは貴金属のアクセサリーを持って行っている。イスタンブールにはそれからも何度も一人で行っているが、経済成長に伴う生活水準の向上や観光大国化に伴い、今では空港内の治安やセキュリティ自体も格段に向上してきた。なので以降にそういった思いをすることは一度もなかった。なかったものの、やはり出国の時は毎回気を引き締める。

現代ではWEBや予約が便利になってひとり旅や個人旅をすることが非常に便利で一般的になっているが、「海外旅行を怖い」と思いながら旅をしている人はどれぐらいいるのだろうか。私は海外の旅自体は好きだが、いつも「何としても生きて帰りたい」と思いながら行動している。治安が良くて夜も安全な日本ではなかなか考えにくいことだが、一歩外の世界へ出ると何が起きるかわからないし、誰も守ってくれない。そんな中で、常に緊張感と危機感を持って行動することを心がけたい。そして、万一の時を考えてあらかじめ色々な手を打っておくことが必要だ(もちろん準備してもどうにもならないこともあるが)。その一つの手段が、チップである。

地獄の沙汰も金(チップ)次第。

大金を見せることは百害あって一利なし。かえって自身に危険が及ぶので、見せるのも渡すのも小銭でいいのだ。それだけで人の心持ちや行動は随分変わるものだ。
楽しく旅をしている中で、こういったマイナスの意味でのチップはできる限り使わなくて済むのが良いのは間違いないが、一分一秒を争う時にはモタモタせずに「さっ」と効果的に渡せるようになっておきたい。(と今でも思いながら、これからも新しい場面に出会ったら絶対ドキドキしそうだけど)

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