【Movie】宗教と友情の間〜千年医師物語 ペルシアの彼方へ〜
先日、トルコ風にチャイハネしながら映画視聴。
「physician」
邦題は、「千年医師物語〜ペルシアの彼方へ〜」。
ドイツがお金と時間をたっぷりかけて作り上げた超大作映画。
イブンスィーナーって知ってます?
世界の大学者であると同時に、イスラーム世界が生み出した最高の知識人と評価され、ヨーロッパの医学、哲学に多大な影響を与えた、実在の偉人。
ダビンチみたいな博覧強記の知識人で、哲学や天文学などにも広く精通してる。
その人に遠いイングランドの地から、海と砂漠を渡り、医学を学びに来るクリスチャンの青年ロブの話。
ロブは貧しい家で、母親が道の病に倒れ、天涯孤独の身になったが、その後に出会った床屋に師事し、手当てを学ぶ。
当時は床屋が医者まがいのことをして放浪しながら生計を立てていたが、その技術はいい加減なものであった。
ある日、床屋が失明しそうになった時に、異国の医者が不思議な方法で治療を施す。その技術に魅了されたロブは、それはどうやって身につけたか医者に聞く。その医者は言った。
海を渡った遠いイスラムの地に住む、ヨーロッパの偉大なる医師イブンスィーナーに学んだとーーー。
小説の映画化らしいが、凄く凄〜く
よかった。ノアゴードンの原作も読みたいな。
映画は、本筋ももちろん面白いのだが、映像美が際立っているとともに、当時の文化混淆などが垣間見られるのが良い。
クリスチャンの主人公が、故郷のイングランドかイランに行くにあたって割礼してないと殺される、などの前評判を聞いていたり、クリスチャンを伏せていないと生きていけないと脅されたりするが、普通にイングリッシュマンとブワイフ朝(と思われる)ペルシアのシャー(王)に可愛がられたり、最終的には当時は異教徒ゆえ可能な偉業を成し遂げる。その他にも地主の政略結婚に連れてこられたユダヤ人の娘と禁断の恋に落ちたりなど、一般的には宗教として閉鎖的な先入観を持たれやすいイスラーム国家だが、映画では民族や宗教の混交と多様性の豊かさがベースに敷かれていて、首都のイスファハンが豊かに栄えた理由を垣間見た気がした。まあ映画はそこまで考えてつくっていないかもしれないが。
またその一方で、先端医学を宗教的に異端扱いしたり、異教徒を目の敵にして殺すような、回帰的な原理主義勢力(ここでは11世紀後半に侵略してきたトルコ系のセルジュク勢力か、ガズナ朝のインド系勢力のどちらかと思うが推察できない)とのコントラストも興味深い。同じ宗教の持つ諸民族、諸国家の寛容と閉鎖の二面性。
最後に旅。当時の海と砂漠を自力で超える経験は想像を絶するが、映像からは自分の足で歩くことの価値と決意を感じた。
今の旅は、便利で簡単すぎて、近すぎる。真理を掴み、覚悟を貫くにはそれだけの旅の苦しい過程があってこそ価値があるものだ。その意味で、貧富貴賎の差を超えて人間として「参詣道を何日も歩いて辿り着く」という「巡礼」の持つ意味合いに近いようにも思う。
千年医師物語ストーリー
なお、全く関係ないが、ヨーロッパではアヴィセンナと呼ばれてたイブンスィーナーは、当時の世界の大学者であると同時に、イスラーム世界が生み出した最高の知識人と評価されている。また、彼の業績はヨーロッパの医学、哲学に多大な影響を与え、彼らから「第二のアリストテレス」と称されるほどであった。そんなイブン・スィーナーだが、薬学も詳しくてコーヒーの前身である「バンカム」を発見し、飲用方法を開発して記載している。そこからコーヒーが開発され、その煮汁の医学的効能からイスラムでのスーフィーなどで覚醒とトランスのために使われ始め、一般人、ひいてはヨーロッパなどの外交手段として海外へと普及していったのも有名な話である。ちなみに、世界で最初のカフェ「カーネス」はトルコで生まれた。コーヒーとイスラムとトルコの関係はこれでかなり積もる話があるので、またの機会にする。
英語版。
謎の死を遂げる主人公ロブの母。
当時医師まがいのことをして生計を立てていた床屋に拾われる。
異国から地主に嫁いできた娘に恋する。
悲願の師匠に助けられ、学ぶ。
まなぶ。
いつしか、孤独なシャーの良き友人ともなる。
ある死をきっかけに、イスラム禁断のことに手を染める。
回帰主義の勢力から、狙われるイスファハーンの都。そして、ロブは異端のネクロマンサー(死霊使い)の嫌疑をかけられる。
シャーの手当て。シャーから意外な発言が。
ここから、シャーがかっこいい展開に。
私のお気に入りキャラは、実はちゃらんぽらんな懐の大きさと度量を兼ね備えたイスファハンのシャー(多分、年代と情勢的にスィーナーを宰相に登用したアラー・ウッダウラかなーと思ったりしている)だったりします。