サウジアラビアの融和策と観光ビザの解禁
今日、「イスラームの盟主」と呼ばれているサウジアラビア。私にとっては閉ざされた未知の魅力的な国である。
イスラームの文化に関心があり、今日のシーア派大国のイランに行ったことがある者ならば、スンニ派大国サウード王家のアラビア(サウジアラビア)に一度は行ってみたいと思う(に違いない)はずだ。たとえ、私のように異教徒でハッジ巡礼やウムラ巡礼でメッカに足を踏み入れることが出来ないにしてもだ。
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サウジアラビアや中東諸国の成り立ち
かつてイギリスは、反乱を起こして自国に都合が良いように動いてくれたアラブの地元の有力者「ハーシム家」を満足させるために、自国の委任統治領の中でエンピツを舐め舐めしながら「イラク」という国を作ってあげ、ファイサルくんを国王に据えた。が、なんと後にファイサルくんにはアブダッラーという兄ちゃんがいることが判明し、律儀なイギリスおじさんは兄弟ケンカしないように残りの統治領から「ヨルダン」という国を切り出して兄にもあげた。でも、彼ら兄弟のお父ちゃんは不運なことに何ももらえなかった。イギリスも父に何かあげたくなった(かもしれないん)だけど、気づいたらもう「切り分けてあげる土地」がなかった。というのも、もう一つイギリスが地元でお世話になっている有力者「サウード家」さんが我慢できずにメッカを襲撃して、ハーシム家を追っ払っちゃって、さらにその勢いでアラビア半島の8割を占領しちゃって、「ここからここまで俺の王国ー!(サウード家のアラビア王国、サウディアラビア王国)」と宣言しちゃったため。(占領を免れたのは、イエメン、オマーン、あと湾岸の小さい首長国などのみ。)ちなみに、レバノンはフランスがお世話になっていた「マロン派キリスト教徒」が多数派を占めるように恣意的に国境線を引いて作った人口国である。それがゆえに、今では「中東のパリ」や「中東のスイス」と称されるような、ワインとご飯が美味しくて、美しい景観の欧米好みの国になっている。
ムスリムに人気の聖地を抱える国
サウジアラビアは現在観光ビザを発行していないが、メッカやメディアなど巡礼にはイスラム教徒限定で巡礼ビザを発行している。イスラームの義務である巡礼を果たすためとあって毎年世界中のイスラム信徒が集まっている。そのためメッカのキャパシティが追いつかず、近年では巡礼用ビザは抽選となることもあるのだが、その当選確率は宝クジが当たる確率より低いらしい。そこで、10年前ほどから巡礼ビザが取れなかった人向けにSecondLifeなどでのvirtual hajj(バーチャルハッジ)が流行したり、VRなどを活用した360度見渡せるハッジサイトが出来るなどの擬似体験の技術が進んでいる(最終的にそれらを正式な「ハッジ」として宗教権威者から認められるかという問題はあるが)。それほど巡礼者の憧れの場所である。
The Controversy Over a Virtual Hajj for Muslims
厳しいイスラームの戒律を守る国
さらにサウジアラビアは、厳格なスンニ派イスラームの国としても有名である。「世俗化と貧富の格差、イスラーム信徒の堕落化・多様化・多民族化を律し、原初の古き良きアラブの民の共同体を取り戻すための(彼が考える)純正イスラームに回帰させねばならない。そのための(彼が考える)ジハードは正当であり、異教徒や堕落したイスラム教徒を全て制裁・改宗する必要がある。」という原理または根本主義に近い、イスラームの「法」であるクルアーンの解釈に厳格なワッハーブ派の教えをベースに建国されている(諸説あり)。ちなみにワッハーブというのも、サウジアラビアのサウジ(サウード)も人の名前で、領土を広げる野心を持っていたアラビアの砂漠の小国の「サウード」家さんが、教えが厳格すぎて色んな国から受け入れられず行き場所に困っていた「ワッハーブ」さんとコラボした結果、結束力と攻撃力が高い宗教集団が生まれてアラビア半島の大半を統治出来たのだ。
世界一の石油埋蔵量を誇った国
サウジアラビアは世界一の石油埋蔵量を誇ると言われており、アメリカに対して石油の利権を渡す見返りに独裁政権の維持と周辺国からの安全保障をとりつけている関係で、中東における軍事力と発言力が大きくなったがゆえに「イスラームの盟主」と呼ばれるようになっていった。(それまではエジプトが頑張っていた)。王族関係者は財力をもとに豪遊する様から「オイルダラー」と呼ばれて経済格差を作ったりしたが、一方で国のインフラ整備を行うなども熱心に取り組んだ。
そんな三拍子揃った行きにくい国が、近々なんと観光立国に向けて異教徒にも「観光ビザ」を新たに発行を認める動きがある。
An Update On Saudi Arabia’s New Tourist Visas – One Mile at a Time長らく異教徒観光客に閉ざしていた門戸を再度オープンにする。その理由としては、安全保障のバーターとしていた石油が枯渇したり、代替エネルギーに移行されることで財力も勢力も発言力も危うくなるので、何か他のマーケットを作っておく必要があり、それにふさわしい一大ビジネスが観光と見なされたようだ。ムスリム向けマーケットに観光業を行ってきたサウジアラビアの観光関連会社などが非ムスリム向けのマーケットを開くことで、ワッハーブの教えとの共存をどのように図っていくのか、それともまた別の柔軟な宗派に変わっていくのかが気になるところ。女性の車の運転を許可したり、一部娯楽施設を認めるなどの融和策もその時代の流れなのかもしれない。
先日お知り合いになった方から紹介していただいた本で、アメリカの学校でサウジアラビアの女の子とルームシェアをする女の子サトコのハートフルな四コマ漫画が面白かった。現在3巻まで出ているようだ。
サウジのエッセイ本は他に、以下も友人に進められて読んでおり、厳しい(と筆者や異教徒が連想してしまう)戒律の中で、時に選択の自由を求め、時にたくましくチャーミングに生きる人々の生活が生き生き描かれていて面白い。
そう思うと、私はアラビア半島以外の多民族の多様化されたイスラーム圏ばっかりだなあ。人によっていろんなイスラームがあって面白い。