2018-05-06

イランの海外SNS規制強化とその反発に見る闇とジレンマ

イランで新たにTelegramの使用が禁止されたことを受け、イランの人々がSNS規制に反発している。

Iran Telegram Fans Vow to Defy Moves to Block it

「反発」自体は別に今に始まった事ではなくて、イランにおける民間の海外SNSは政治情勢によって政府に遮断されたりされたり緩和されたりを繰り返している。
私が旅していた時(2017年11月)もInstagramやWhatsappはかろうじて使用できたが、事前に使えないとわかっていたFacebookやTwitterの他にも、新たにfoursquareも使えなくなっていた。

今回の旅ではほとんどの食をfoursquareの情報に頼ることができたのも、直前まで普通にイランの人々が使用していたために情報が多く残っていたからだ。
2017年11月イラン渡航準備〜イランの美味しいレストラン編〜

しかし、その一方でVPNを使用すれば簡単にFacebookなどの禁止SNSサービスを見ることができることを多くのイラン国民が知っており、実際に使っている。
(今回私たちも旅ではずっとVPNのお世話になっており、日本と変わらない通信環境を享受できた。イランにおいては、市街のwifiの環境が安定していないのと、ホテルのwifiでもセキュリティが甘いことから、諸々の事情で接続が安全ではないため、VPNを使うときは特にsimカードを買って使用することを強くお薦めする。)

2017年11月イラン渡航準備〜インターネット・アプリ編〜

その結果、政府の民衆の監視や革命の弾圧が効かないので、政府は監視用に海外の民間SNS会社へ取得データや履歴の受け渡しを要請するも、各社ではもちろん個人情報の秘匿義務があるためデータを開示することはない。そうすると、今度は政府で本格的に自国版のSNSを作成し、それを民衆に使うよう強要する。そうすることで、データの収集ができ、自国の社会情報が海外民間のSNS社に流れて、欧米諸国から革命の裏工作に使われる恐れも少なくなるというのだ。これがまたあまり評判が芳しくない。特にインバウンドの観光産業に重きをおくホテルや旅行会社などは、ただでさえも欧米系の大手旅行産業サービス(Expedia、Booking.com、Airbnbなど)から遮断されているハンデがある上に、弾圧によって海外旅行客とのSNSのコミュニケーションインフラを失うことになるので、商売上の痛手が大きい。

こうして今のイランは、政府の統制によって旅行客には治安が良いものの、その実、日々どことなく落ち着かない緊張感が漂っている。国民に対しては国の体制維持のために宗教的独裁色の強い内向き政治になっているが、その一方で欧米の経済制裁や石油産業の限界という課題を受けて外向きにならざるを得ない。さらに、美しいイスラームの世界遺産が世界的に注目されるようになって海外旅行客が増えてきていることから、観光産業にも力を入れ始めており、どうしても国際関係的に外向きにならなくてはならない状況まで来ている。しかしその動きに反して、政府は国内の情報が海外に漏れるのを恐れて様々な形で国民の監視を強めようとしている。

それに対して国民も黙っていない。
先日の記事でも紹介したが、風紀警察を回避できるアプリが民間で生まれるなど、政府への反発はどんどん強まって行く。

イランの風紀警察の検問場所を共有・回避できるアプリが話題。

これは、中国やロシアの情報統制、また他の革命を起こしたイスラム諸国の動きとも近いものがある。

Iran Bans Government Bodies from Using Foreign Message Apps

ちなみに「独裁」が悪いかと言うと、中近東の国々はそもそも欧米に都合が良いように政治介入された結果、「独裁でなければ国が維持できない」からそういう状態になっているのであって、一概になんとも言えない。海外からの「経済自由化」という名の強い利権の介入と、それを抑止して国家の独立のために多民族多宗教の中で強いアイデンティティと団結力を養って行くというのは表裏一体で、国が資本主義経済の構造である限り時代とともに繰り返される。もともと産業革命以前の広範なイスラーム圏経済というのは、現代とは全く別の「ゆるいつながりの経済構造」で成り立って来たからだ。欧米寄りの国家である日本にいて、それらのフィルターがかかった日本語訳メディアだけを見ていると「旧体制の独裁者が中東を宗教的に拘束して民衆を苦しめている」というイメージが濃くなるが、歴史の流れや諸外国の動きを少しでも知っていれば、占領下の混乱期に自分達の利権のために独裁者を育ててしまったのは欧米自身であることがわかる。なので欧米メディアで「独裁者が権力を持ちすぎなので正義のために弾圧するのだ!」とアピールされてしまうと、個人的にはいつも違和感があるのだ。

実際イランはイスラームシーア派の元締めとなる大国であり、同じくイスラームスンニ派の大国であるサウジアラビアと、お互いがお互いのけん制役となっていることで中近東のバランスが保たれている。それが故に、何らかの内部的外部的要因で一方の体制やパワーバランスが崩れると、世界中の情勢や政治の混乱を引き起こす可能性が高い。その意味でイランに行くということは、表面上の治安の良さ、人当たりの良さとは別に、とてもセンシティブな環境下にいることを私たちは旅人として理解して、危機感を持っておかなければならない。

最近イランに渡航される方々が世界的に増え、このブログにおいてもイラン関連の記事がたくさん読まれており、関心を持って頂けて個人的にはとても嬉しい。ただ、イランに限らずとも、旅をする時にはその土地の歴史・文化背景や政治情勢などに興味を持って探求することで自分なりの価値観を養うと共に、旅をしている時にも「今世界がどう動きつつあるのか」、「その中で自分はどう生きたいのか」を意識しながら、世界と自分の接点を増やしていく「未来に繋がる旅」になるといいな、といつも思っている。

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